「今年初めてのかき氷」 蝉の鳴く昌平坂を扇子片手にとぼとぼと… 額に流れる汗を手で拭いながら、坂道を上る。 行き先は神田明神の大鳥居の横の「天堅屋」さん。 元々糀屋だけど、その地下の室を活かして天然氷を置いている。 それを毎年梅雨明けとともに食べに行く楽しみ… それを思うと、身にまとわりつく暑気も何のその。 今年初めてのかき氷、ショリショリと氷を掻く音が店に響くと、 それだけで、涼しげな気分になる。 更に出された氷を口に運ぶと、頭に突き抜けるような冷気の快感! この快感を味わいたいがために、わざわざ熱い思いをしてきたんだ。 クーラーなんていらない。せっかくのかき氷の意味がない。 BGMもいらない、湯島聖堂の木々に宿り鳴く蝉の声と、 オーソドックスな扇風機が作り出す風に、 時折チリリンと鳴る風鈴が風流な音を奏でる。 香水も芳香剤もいらない。 蚊遣り豚からたなびく蚊取り線香の香りが鼻を落ち着かせ、 オーソドックスな店の風景が、心を落ち着かせる… 嗚呼、至福のひととき・・・ 暑さに次第に溶けて行くかき氷を夢中で頬張りながら、 目の端に映った突然の閃光と共に鋭い雷鳴… 勢いよく乱暴に軒を打つ雨音、それは、自然が与えてくれる打ち水。 突然の停電、看板娘の悲鳴もまた一興! 暗い店内ですする氷水もまた一興!! 藤次郎正秀 P.S.毎年かき氷を食べに言っている天野屋さんのある日の風景と 私の妄想の産物です。